朗読者

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  「朗読者」
                            作・水城ゆう

 つづける。つづける。読みつづける。彼は読みつづける。彼は読みつづける。
 彼は読みつづける。老人に向かって。若者に向かって。少女に向かって。会社員に向かって。学生に向かって。浪人生に向かって。美大生に向かって。音楽家に向かって。小説家に向かって。プログラマーに向かって。デザイナーに向かって。クラリネット奏者に向かって。陶芸家に向かって。パティシエに向かって。女に向かって。あなたに向かって。
 彼は読みつづける。学校の校庭で。ギャラリーで。飲み屋の一角で。ホールで。講堂で。集会所で。アトリエで。往来で。商店街で。森のなかで。海辺で。多くの人々の前で。少しの人の前で。被災地で。戦火のなかで。あそこで。ここで。
 彼は読みつづける。日にあたりながら。ライトに照らされながら。雑踏に声をかき消されながら。子どもにからかわれながら。着信音にさえぎられながら。オルガンを聴きながら。エンヤに包まれながら。居眠りする老人を気にしながら。あなたを見ながら。
 来る日も来る日も彼は読みつづける。
 あなたは彼が読みつづけていることで世界がありつづけることを知る。彼が読みやめるときが来ることなどあなたは想像することができない。世界がありつづけるかぎり彼は読みつづけるだろう。彼が読みやめるその瞬間をあなたは知ることはない。
 しかしそのときはたしかに来る。
 彼は読みつづける。それが過去形になるときがたしかにある。しかしいま、彼は読みつづける。あなたに向かって。

三鷹Sonidoでのライブ映像、一挙放出

2012年10月3日夜、三鷹〈Sonido〉で初の音楽と朗読のライブを、ドラムスの今竹一友さんを迎えておこないました。
その模様をほぼ全編、YouTubeで公開しました。

最初の演目は、水城ゆう作「じぃは今日も山に行く」。
朗読は野々宮卯妙、ピアノ演奏は水城ゆう。

ファーストステージ2番目の演目は、水城ゆう作「また君は恋に堕落している」。
ここでドラムスの今竹一友さんがはいりました。朗読は野々宮卯妙、ピアノ演奏は水城ゆう。

ファーストステージ3番目の演目は、太宰治作「彼は昔の彼ならず」。
朗読は照井数男。ドラムスの今竹一友さんとのデュオではじまり、途中からピアノで水城が参加します。

ファーストステージ4番目の演目は、夢野久作作「きのこ会議」。
朗読は山田みぞれ。ドラムス・今竹一友、ピアノ演奏・水城ゆうです。

ファーストステージ5番目の演目は、水城ゆう作「とぼとぼと」。
朗読は佐藤ピリカ。ドラムス・今竹一友、ピアノ演奏・水城ゆうです。

ファーストステージのラストは、夏目漱石作「夢十夜・第十夜」。
朗読は照井数男、佐藤ピリカ、山田みぞれ、野々宮卯妙。ドラムス・今竹一友、ピアノ演奏・水城ゆうです。

セカンドステージの最初は、太宰治作「悶々日記」と「貨幣」を構成した作品「悶々貨幣」。
朗読は佐藤ピリカ、野々宮卯妙、山田みぞれ。ドラムス・今竹一友、ピアノ演奏・水城ゆうです。

セカンドステージの2番目は、水城ゆう作「ゼータ関数の非自明なゼロ点はすべて一直線上にある」。
朗読は佐藤ピリカと野々宮卯妙。ドラムス・今竹一友、ピアノ演奏・水城ゆうです。

セカンドステージの3番目は、水城ゆう(piano)と今竹一友(drums)によるデュオセッションです。
完全な即興で、タイトルも決まってません。
だれか素敵なタイトルをつけてください。

セカンドステージの4番目は、太宰治作「葉」。
朗読は照井数男。ドラムス・今竹一友、ピアノ演奏・水城ゆうです。

セカンドステージの5番目は、水城ゆう作「たとえおまえが僕の敵だとしても」。
朗読は野々宮卯妙。ドラムス・今竹一友、ピアノ演奏・水城ゆうです。

ラストは、水城ゆう作「祈る人」。
朗読は照井数男、野々宮卯妙、佐藤ピリカ、山田みぞれ。ドラムス・今竹一友、ピアノ演奏・水城ゆうです。
以上、演奏も朗読もすべて即興です(テキストは決まっていますが)。

水城ゆうの音楽塾

今日から水城ゆうの音楽塾、やってます。
基本はゼミ生対象ですが、興味のある方はお問い合わせください。
音楽とはなにか、どんな構造か。
今日は音楽史から、その発展のしかたから音楽を見てみました。
音楽を構造的に理解することで、音楽を作り出す人になろう!
…という…

共感的コミュニケーションを学ぶ

野々宮です。
ただいま、銀座で2級ボイスセラピスト講座を開催しています。
前半の呼吸法や発声、音読エチュードについては
私が講義させていただきました。
その後水城オーガナイザーにバトンタッチし、
いまは音読療法の手法の中でもとても大事な、共感的コミュニケーショ…

共感的コミュニケーションを学ぶ

野々宮です。
ただいま、銀座で2級ボイスセラピスト講座を開催しています。
前半の呼吸法や発声、音読エチュードについては
私が講義させていただきました。
その後水城オーガナイザーにバトンタッチし、
いまは音読療法の手法の中でもとても大事な、共感的コミュニケーショ…

盛況!土曜昼ゼミ~10月24日は北浦和へ

今日の昼ゼミはいつもより大勢の参加者で盛況でした。
写真は、
来月のお茶会朗読@北浦和でお披露目する予定の、
玻瑠あつこ&てんトコロによる「袈裟と盛遠」(芥川龍之介)を
皆で聞いているところ。

こんなに面白い「袈裟と盛遠」は他にないでしょう!
うーん、すごいです…

臨時月曜昼ゼミでコアマッスル鍛錬に挑む

新人ゼミ生、佐藤くん。
細身でコアマッスルが弱いというので、
朗読しながら上体を(なるべく)倒さず下ろすスクワットをやる、
というまるで鬼コーチかブートキャンプなエチュード?を命ぜられました。
iPhoneを見ながら泉鏡花「夜行巡査」を読んでます。
キツイです。
見て…

臨時月曜昼ゼミでコアマッスル鍛錬に挑む

新人ゼミ生、佐藤くん。
細身でコアマッスルが弱いというので、
朗読しながら上体を(なるべく)倒さず下ろすスクワットをやる、
というまるで鬼コーチかブートキャンプなエチュード?を命ぜられました。
iPhoneを見ながら泉鏡花「夜行巡査」を読んでます。
キツイです。
見て…

お茶の練習

10月24日、北浦和でお茶会+朗読会という企画をやることになりました。
椅子席なので気楽にお出しすればいいのですが、
一応お作法を知っておこうということで、
若いながら茶道歴20年のベテラン、まなさんに朝ゼミを利用して、
お菓子やお茶をお出しする練習をしているとこ…

梅丘テイクファイブ・ライブ(13)彼は眠らない

現代朗読協会が初めて梅丘のライブバー〈テイクファイブ〉で朗読ライブをおこないました。
ライブ最後となる13番めの演目は、水城ゆう作「彼は眠らない」。
出演者全員での朗読です。

原作はこちらで読めます。

11月には梅丘音楽祭が開催されます。
げろきょはそれにも出演予定です。
また、その前の10月には横浜のホッチポッチ・ミュージックフェスティバルへも招聘されています。
12月末には明大前の〈キッド・アイラック・ホール〉で公演もあります。
みなさん、直接現代朗読をご覧になってください。
映像で見るのとはまったく違ったものが伝わることと思います。

ギターを弾く少年

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  「ギターを弾く少年」
                            作・水城ゆう

  ギター演奏から。
  ゆったりと静かだが、メジャーキーの曲想で。
  しばらくギター演奏。のあと、朗読が演奏にかぶさってはいる。

 風が吹いていました。
 もう夕方に近くなっていましたが、まだ日がさしていました。
 まだ春は来ていなかったけれど、今日は暖かい一日だったのです。
 やわらかな風が木々を歌わせていました。おだやかなリズムと暖かなハーモニーをかなでていました。森が音楽をかなでていたのです。
 その森のなかから、男の子はやってきました。

  ギター演奏がゆっくりと終わる。
  演奏が終わるのを待ってから。

 男の子はストラップを肩から斜めにかけて、ギターを背負っていました。身体の割にいかにもギターは大きく見えましたが、よく見るとギターは普通の大人用のものよりひとまわり小さいのです。それでも男の子には大きすぎるほどでした。
 ほかには男の子はつばのある帽子を目深にかぶっていて、そのせいでどんな表情なのかよく見えませんでした。そして大きな革靴を履いていました。革靴は靴ひもが締まっていましたが、長すぎるせいで蝶結びの部分は大きくなって地面に少しこすれていました。
 着ているものは質素なズボンとセーターだけ。セーターは首と肘のところにほころびがありました。
 森のなかから出てきた男の子は、森のはずれに切り株を見つけると、そちらに近づいていきました。その様子をさっきからずっと、ひとりのおじいさんが見ていました。おじいさんは天気がいいと、毎日この森のはずれの広っぱにやってきて、小川のへりにある古い柳の切り株に腰をおろしてひなたぼっこをするのが習慣なのです。
 少年が切り株を吟味し、身体をかがめてフッとほこりを吹きはらってから、そこに座るようすを、おじいさんは全部見ていました。少年はおじいさんに気がついているのかいないのか、こちらには目を向けません。でも、そう遠くはないのです。小川のへりに何本かはえているクルミの木を二本ばかり渡せば届きそうな距離なのです。
 少年は切り株に座ると、背負っていたギターをぐるっと身体の前に回し、抱えました。そしてしずかにギターを弾きはじめました。

  静かなアルペジオだけの演奏、しばらく。
  その演奏にかぶせて。

 少年の指には大きすぎるように見えるギターから、静かな音が聴こえてきました。その音は風が歌わせている森のざわめきに溶けこみ、ひとつの曲をかなでているみたいでした。
 森のなかからは鳥のさえずりも聴こえてきました。鳥はまるで森と少年のギターの伴奏にあわせてメロディを歌っているみたいでした。
 別の種類の鳥もさえずりはじめました。メロディが重なり、ハーモニーのように聴こえます。おじいさんは思わず耳をそばだたせました。
 そういえば、しばらく音楽を聴いていなかったことを思い出しました。しばらくどころか、この以前にいつ音楽を聴いたのか、思い出せないほどです。若いころはあんなに夢中になっていろいろな音楽を聴いていたというのに。しかしこのごろは森の音や鳥のさえずり、小川のせせらぎがあるので、音楽を聴く必要がなくなっていたのです。

  アルペジオの演奏、続く。
  コードとアルペジオパターンはゆっくりと変化していく。
  しばらくの間を置いて。
  朗読が始まったら徐々にギターは抜けていく。

 いつのまにか、ひろっぱに女の子の手を引いたお母さんらしき人と、おばあちゃんらしき人がやってきていました。街のほうから来たようです。おじいさんも見覚えのある人たちでした。時々おかあさんと女の子、あるいはおばあちゃんと女の子、そしてたいていは三人でこの広っぱに来て、しばらく遊んで帰るのです。
 三人はすぐに男の子に気づき、しばらく見ていましたが、女の子がお母さんの手を振りほどいて男の子のほうに駆けていきました。お母さんは「待って」と口を開きかけましたが、間に合いませんでした。そこでお母さんも女の子を追って少年に近づいていきました。
 女の子が男の子の前に立つと、男の子は演奏をやめました。そして女の子を見ました。ふたりは同じくらいの年に見えました。女の子のほうが少し小さいかもしれません。
 追いついてきたお母さんが少年を見下ろすと、いいました。
「こんにちは。ギター、上手なのね」
 少年はお母さんのほうを見上げましたが、なにもいいません。挨拶もしません。
 お母さんはちょっと困った顔になりましたが、またいいました。
「どこから来たの? あなた、ひとり? お母さんかお父さんはいないの?」
 男の子はなにも答えません。
 おばあちゃんが横からいいました。
「ぼく、お話はできる?」
 なにもいいません。お母さんがいいました。
「どこか悪いのかしら。見たところ病気でもなさそうだし。迷子かしら」
「警察に届けたほうがいいかねえ」

  ギター、コードストロークでリズミカルに入る。
  マイナーキーのコード進行。
  徐々に激しく。
  ギターにかぶせて。

 急に風が強まってきました。
 冷たい風が森をざわつかせながらやってきて、広っぱのみんなに吹きつけてきました。鳥のさえずりはいつのまにか聴こえなくなっていきました。
 みんなは思わず首をすくめて、襟をかきあわせました。
 そのとき、女の子が男の子にいいました。
「寒くない?」

  ギターのコードストロークが、にわかに静かになり、コード進行も変化する。

「あたしの上着、貸したげようか」
 男の子は首を横に振りました。それを見て、みんなは初めて、男の子が話を聞いて理解していたことがわかりました。
 それまでこちらでだまって見ていたおじいさんがゆっくりと立ちあがると、みんなのところへ歩いていきました。

  ギター演奏、とまる。

 おじいさんに気づいた三人が振り返りました。おじいさんは三人に黙ってうなずくと、少年の前に立ち、いいました。
「この風は天気が変わる前兆だ。日が暮れるし、これから急に冷えてくるよ。もうお家にお帰り」
 それを聞いたお母さんがいいました。
「この子のこと、知っておられるんですか?」
「いや、知らない子だ」
「どこに住んでるのかしら」
「わからない。しかし、帰るところはあるんだろう。私たちが詮索する必要はないだろうさ」

  ギター演奏。今度は曲。できればメロディをともなった曲。
  すぐに朗読はいる。

「お腹、すいてない?」
 女の子がききました。男の子が答える前に、女の子は背中にせおっていた小さな鞄をおろすと、中からリンゴをひとつ取りました。
「これ、あげる」
 リンゴが少年に手渡されました。
「ありがとう」
 少年がそういうのを聞いて、みんなちょっとびっくりしました。
 少年は立ちあがり、リンゴをズポンのポケットに入れると、ギターをぐるっと背中のほうに回しました。
 少年はやってきたときとおなじように、また森のなかへと帰っていきました。ズボンのポケットが大きくふくらんでいるのが、みんなにも見えました。
 風がすこしおさまり、森のざわめきのなかにまた鳥の声がもどってきていました。
「また会える?」
 女の子がそうたずねましたが、男の子の答える声は聞き取れないまま、森の中へと消えていきました。
「きっとまた会えるさ」
 おじいさんがそういうと、女の子はおじいさんを見上げ、ニコッと笑ってから、お母さんとおばあちゃんの手を求めてつなぎました。

初めての気流舎での朗読会

昨日は下北沢〈気流舎〉での初めての朗読会だった。
ここは有志が共同で運営しているブックカフェで、私も運営には参加していないが微力ながら協力している。
とても小さな店で、10人もはいればいっぱいな感じ。
むりやり詰めれば20人くらいははいれるかも。

午後5時すぎに、トランジション世田谷茶沢会の仲間で、気流舎の共同運営者のひとりでもある浅輪くんが、羽根木の家に寄ってくれる。
今夜は浅輪くんと桃ちゃんが気流舎の店番をやってくれることになっていて、その前に演奏機材の一部を運びに来てくれたのだ。
機材は最小のものだが、それでも私ひとりだとかなり重いので助かる。

私も午後6時、気流舎に向かう。
演奏機材のセッティング。
大きなキーボードはセットできないので、2オクターブしかないmidiコントローラーを持ちこんで、これをMacにつないで鳴らすことにした。
それをテーブルに上にならべる。
音は持参のBOSEのスピーカーで鳴らすのだが、気流舎にはWiFi経由のスピーカーも使えたみたいだった。

桃ちゃんも来て、コーヒーをいただく。
焙煎が深くておいしい。
朗読の野々宮も7時半すぎにはやってきて、照明のセッティングなどをする。

映画製作の高遠さんが来てくれる。
お仲間の方もあとで来てくれた。
ICUの学生さんが来た。
ピリカさんが来てくれた。

ほかにも現代朗読に関心があって、つぎの体験講座に来たいという安部さんという方が来られた。
ほかにも若い人がふたり。
店内はそこそこにぎやかになった。

8時すぎ、スタート。
まずは気流舎にある本を、お客さんが好きなように選び、それを片っ端から読んでいくという、野々宮ならではの即興朗読。
なにしろ初見なので、だれでもできることではない。
私もところどころ音でからむ。
私の作品も読まれた。

9時にいったん休憩をはさんで、後半へ。
まだ本を選んでいないお客さんがいたので、2、3册即興朗読をやってから、最後の宮澤賢治「虔十公園林」の全文朗読へ。
みなさん、しっかりと聴き入ってくれた。

終わってからビールや焼酎を飲みながら、みなさんとお話する。
それぞれの方とつながりを感じ、深めることができた。
気流舎での朗読は、野々宮も私も自分の能力をめいっぱい発揮することができて、充実感のあるものだった。
許されるならまたやってみたい。
(演出・水城ゆう)

「キッズ・イン・ザ・ダーク」レポート

このほかにも、昨日の公演のことを書いてくれているゼミ生がいる。
たとえば、こちら、菜穂子さんが書いてくれたブログ。

午後1時、開場。
会場のキッド・アイラック・ホールはかなり狭く、予約者は40人で締め切ったのだが、それでも当日予約せずに来てしまう人もいたりして、それは予測できたことだったので、会場内には40席以上を用意した。
これがなかなか大変だった。
席を作るのは簡単だが、パフォーマンススペースを充分に確保するのに苦労した。
朗読とはいえ、げろきょのパフォーマンスはかなり動きまわるので、ある程度のスペースが必要なのだ。

開演時間の1時半には、会場は来客と出演者でぎっしりと密集した状態になっていた。
そんななか、時間どおりに開演。

暗転後、まずは私の音楽演奏からスタート。
完全に真っ暗な中での演奏。
今回、キーボードを2台使用したので、暗転演奏にはちょっとだけ苦労した。

演奏が終わったら、照明がつき、まずはライブワークショップ参加者によるパフォーマンス。
漱石の『草枕』をフリーリレー朗読でバラバラと登場。
あらかじめ会場中央に用意されていた4脚の椅子のまわりに集まって、次の演目に移る。

次は賢治の「なめとこ山の熊」。
これは椅子に立ったり座ったりしながらの、全員での移動朗読。
かなり難しいパフォーマンスだったが、たった6回(実質的には5回)のワークショップを受けただけの参加者が、しっかりと演じてくれた。

椅子取り朗読。
ひとりずつ中央に残されたひとつの椅子に座ってそれぞれの作品を読むのだが、先に椅子に座っている人は、次の人になかなか譲らない。
次の人は力づくで椅子を奪わなければならない。
そのときの力んだ身体から発せられる声の変化や、ふたりのせめぎあいが楽しい。

いったん暗転。
ゼミ生のパフォーマンスが引きつがれて、「山なりのお」というパフォーマンス。
暗闇のなかに響く「おー」という声が、お客さんには怖かったかもしれない。

以後はゼミ生によるパフォーマンス。
まずは「いちめんの菜の花」。
バラバラに始まった朗読が、急速にギュッと収束して、全員がひとかたまりになり、凝固。
そしてほどける。
それを3回繰り返す。

引きつづき、こだま朗読。
ひとりめが発声した詩の一節を、こだまのように次々とまねていく。

つづいて、輪になってぐるぐる回りながら、詩を読む。
音楽もシンクロ。
読む者が行進時の動作も決め、つづく者がそれをまねしていくという形式。
人数分くりかえされるので、さまざまな読みと動作のパターンが現れて楽しい。
もちろん、音楽もバリエーションを楽しんだ。

出演者が入れ替わって、ふたたび「いちめんの菜の花」の朗読。
しかし、パターンが変わっていて、今度は「挨拶朗読」。
ことさら強調した日本人の「過剰な挨拶」を、詩を使っておこなう。
これも楽しかった。

出演者がふたたび交代して、ディレイ朗読。
ひとつの詩を5人で、ディレイのように少しずつずらして読む。
一節ごとに会場を駆け抜ける役割の人もいる。
布を持ってひらひらさせながら、駆け抜けていく。
最後は鳥の羽毛がふわっと舞う。

サーカスのブランコ朗読。
中也の「サーカス」という詩を、空中ブランコをなぞらえた動作の3人と、朗読の2人がコンビネーションで演じる。

猫朗読。
朔太郎の「ねこ」という詩を、読み手がひとり、猫役が3人で演じる。
最後は「おわあ、おわあ」といいながら、ゼミ生が全員中央に出てくる。

猫がいっぱいになってパニックになりそうになったところへ、指揮者猫があらわれて、整理。
指揮にしたがって、「春はあけぼの」という枕草子の冒頭部分を、輪唱朗読。
これはとても音楽的な朗読。

今度はゼミ生のよる『草枕』の朗読。
ひとり、ふたり、三人以上がそれぞれのタイミングで出ていきながら、中央でコンタクトして反応して、次々と読んでいく。
かなり複雑な動きと読みで、これも難しいパフォーマンスだが、ゼミ生たちは楽しみながらマインドフルに演じてくれた。

賢治の「雨にも負けず」の朗読は、関節朗読と読んでいる方法。
身体のあらゆる関節を曲げた状態からスタートして、詩の読み終わりの瞬間にはあらゆる関節を伸ばしきった状態になる、というもの。
最後の「そういうものに私はなりたい」という箇所は、感動的だった。

最後の演目。
私が書いた「祈る人」。
ゼミ生もライブワークショップ参加者も、全員が出演。
自由朗読と読んでいる、全員で読みながらも自由に読んでいいという、げろきょのもっとも特徴的な朗読方法だが、ひとりひとりが個性を発揮しながらも全体でひとつの表現をしているという、とても感動的なパフォーマンスになった。

終わってみると、ろくにリハーサルもできない中、またワークショップ参加者とゼミ生はほとんどが本番当日に初めて顔を合わせたという状況の中、奇跡のような質の高い公演となった。
これは現代朗読のひとつの到達点であり、また通過点でもある。
しかしまちがいなく、これからの方向性を確認できた公演だったと思う。
(演出・水城ゆう)

公演「キッズ・イン・ザ・ダーク」の来場者アンケートより

ご来場いただいた方々が書いてくれたアンケートから、抜粋してお送りします。
「どのシーンが印象的でしたか」という質問でした。

◎「雨ニモ負ケズ」聞くたびに読むたびに静かにドキドキする詩ですが、おおぜいでの朗読は初めて(?)で下。先生の生演奏とのマッチがとってもステキでした!(28歳女性)

◎朗読というより「動き」があったことに驚いた。初めての体験で新鮮でおもしろかった。(47歳)

◎勿論、自身のなじみのある(思い入れのある)詩が印象的ではありましたが、一つは猫。ダダであり、能動的な気(病)の演出が感じられました。全体では言葉一つ一つが編まれ、消され、また重なっていく様が聴いていて心地良さと程良い緊張がございました。動きや声の変化が楽しみです。(23歳男性)

◎全て、コトバと感情の足し算、引き算、かけ算、割算。たくさんの知的刺激をもらいました。ありがとう。(45歳男性)

◎言葉の内容に意味が無く一人一人の感じている感覚が音になっている時、人ごみの雑多な感覚が伝わってきた。不思議な表現でしたが、楽しかったです。(48歳男性)

◎赤ん坊が……子どもが……の朗読。草枕はたまたま昨日、話に出たので、何となく聞き入った。全体的なパフォーマンス、1人1人の表現がステキだった。楽しかった。自分も入りたくなった。表現がやわらかくてよかった。(39歳女性)

◎「赤ん坊が笑う」同じ言葉のくりかえしの中で、1回1回、新しい発見があった。熱い思いが伝わりました!(49歳女性)

◎以前、体験ワークショップに参加して以来、webpageを時々拝見していました。オープニング、暗闇でも音があれば不安にならずに周りの人と高揚やこれから何が始まるんだろうか? といった気持ちを共有できるのだと新鮮に思いました。客席と触れるような近さであんなに堂々と思いきったパフォーマンスを行なえる皆さんが、本当にすばらしいと思いました。腹の底から元気がわきました。(27歳女性)

◎意味をとるんじゃなくて、声のかさなりを楽しんだ。遠ぼえのシーンが一番良かった。声が上にのぼっていくイメージを感じた。(30歳女性)

◎菜の花で会話をしているみたいで面白かったです。いろんな会話が聞こえてきそうでした。楽しかったです。(14歳女性)

◎初めて現代朗読のliveを拝見致しました。何かわからないけれど込み上げる物がありました。hotでした。暑い中の練習にも負けない強さ、生きる力を感じました。(50代女性)

◎「猫」朗読+動きという、何しろ初めて見ましたので、感想? がすこし時間がたたないと出ません。(80歳女性)

◎赤ん坊が笑う……のところからぐるぐる円になっていったところが印象的でした。見ていて楽しかったです。ほんとに皆さんそれぞれ個性があって、声、体のうごきもいろいろで、おもしろいなむと思いました。

◎風を感じました。ちょっとせつなくなりました。なんでだろーね??(41歳女性)

◎いちめんの菜の花(大人数での)。黄色の菜の花ではなく、ポリゴンの様なモノクロの菜の花からパステル色の様ないろんな菜の花へと変化する様なイメージが伝わってきました。以前一度見せて頂いたのですが、より洗練されていて、別の次元へと昇ったかの様な印象を受けました。これからも是非続けてください。(26歳男性)

◎最初の暗やみが恐かった。でも朗読の世界観をとても自由に表現されていて、ショウゲキ的でした。朗読って色々な表現の仕方があって素晴らしかったです。みなさんそれぞれ個性的で面白かったです。(40歳女性)

ご自分のブログで丁寧な感想を書いてくださった方もおられます。
「水のきらめき」

「キッズ・イン・ザ・ダーク」本日

現代朗読協会公演「キッズ・イン・ザ・ダーク」が本日、
明大前のキッド・アイラック・アート・ホールで上演されます。

暗闇の中で大人だけどキッズな人たちがいろいろしでかします…